広大な面積と多様な民族・宗教を擁する南アジアの大国は、およそ14億人という世界有数の人口を抱えている。その国の医療体制は長らく地域や階層によって課題を抱え続けてきたが、感染症予防を中心としたワクチン接種政策は経済発展とあいまって力強い前進を遂げている。歴史的に見て、感染症対策はこの国の医療分野において一貫した最重要課題であった。一九〇〇年代初頭には天然痘の猛威が絶えず、人々の健康と労働力に深刻な影響を与えていた。その後、世界的な根絶計画が展開され、乳幼児へのワクチン接種を拡大した。
特に一九七〇年代以降、国をあげてワクチン接種推進活動が強まった。地域の公衆衛生関係者、医療従事者が都市部のみならず農村・山間地にも赴き、きめ細かい策定と尽力によって感染症発症数が劇的に減少した。一方、本格的な医療インフラ整備や教育普及が遅れた一部地域では、ワクチン接種率の格差が顕著だった。啓蒙活動の浸透や物流システムの拡充によって接種機会が次第に均等化され、現在では国産ワクチンの大量生産も実現している。熱帯気候と生活様式の多様性から、デング熱、A型肝炎、百日咳などの各種感染症リスクが拡がっていたが、保健当局の取組みにより、予防接種プログラムが定期的かつ包括的に実施されてきた。
とりわけ注目されるのは、数十億本規模のワクチンを生産できる製造基盤の発展である。外部技術導入と現地技術者育成が両立し、価格も世界水準より廉価な供給体制を実現した。これにより国民自身はもちろん、多くの海外諸国に対する医薬品輸出の中核も担っている。また、乳児期の六種混合ワクチンや、女性を意識した子宮頸がん予防接種の全国普及にも力を入れ、母子保健指標の改善に貢献している。年々人口が増加する一方、都市と農村間には今も医療資源の偏在が見られる。
しかし保健所・診療所ネットワークや遠隔医療などを用い、ワクチン接種率の底上げが継続的に図られている。とくに、生後すぐの新生児や就学前健診の段階からワクチン接種履歴を一元的に記録する仕組みが拡大し、児童・生徒の免疫力強化を推進する基盤となっている。もうひとつ特筆すべきは、多民族国家として、宗教・言語・文化に配慮した医療提供が求められてきたことである。特定の宗教祭礼時期や葬送習慣、または古くから残る伝統的健康観などに配慮したうえで、住民参加型の感染症対策キャンペーンを展開し、誤解・偏見などを丁寧に解消してきた実績もある。これらの努力が功を奏し、ワクチン忌避や接種拒否の割合も世界的に低い水準に保たれている。
感染症の種類もまた変遷している。ポリオや麻疹などには長年のワクチン普及が効果を挙げ、大規模流行の危機は大幅に減ったが、新たなウイルスや抗生物質耐性菌の出現により、柔軟で先端的なワクチン開発能力の重要性が増している。昨今の流行時にも自国で短期間のうちにワクチン開発から製造、接種、流通までを完結させ、世界的な供給拠点としての地位を高めている。将来像を展望すると、母子手帳や電子健康記録などの普及によって、一元化された情報管理が医療品質のさらなる向上と不公平の解消をもたらし、十分なワクチン接種がますます進行していく見込みである。人口構成の変化に合わせ小児科のみならず成人までを射程にいれた任意接種制度も強化されつつあり、中高所得層を中心に先進医療を求める需要にも応じ、国産研究開発型医薬品のシェア拡大も目指している。
このように、感染症多発地帯という課題を逆手に取り、数十年にわたって継続的な制度改革と投資を積み重ねてきた。現在では、医療やワクチン分野における人的・技術的蓄積が国際的にも高く評価され、多民族社会として包摂的な公衆衛生モデルの発信地ともなっている。都市専業から地方・山間僻地へときめ細やかな医療アクセスを充実させ、将来に向けて持続可能な健康社会を築くための原動力となっているのが現状である。南アジアの大国であるインドは、人口約14億人を抱え、多様な民族・宗教を背景に医療格差やインフラの遅れといった課題に直面しながらも、感染症対策、とりわけワクチン接種政策の発展を遂げてきた。20世紀初頭には天然痘が深刻な脅威であったが、ワクチン普及や公衆衛生従事者の尽力によって発症数が大幅に減少し、1970年代以降は国を挙げた接種推進が強化された。
交通や情報インフラの拡充により地域間格差も徐々に是正され、国産ワクチン大量生産体制が確立されたことで、安価な医薬品供給と海外輸出の中心地にも成長している。その一方で、デング熱や百日咳など多様な感染症への対策も推進され、乳児や女性を対象としたワクチン接種が母子保健向上に貢献している点が特筆される。宗教や文化に配慮した住民参加型の啓発活動も実施され、多民族社会においてワクチン忌避率が世界的にも低い水準に保たれている。さらに情報の電子化や遠隔医療の導入によって接種履歴の管理が進み、都市部と農村部双方でのワクチン接種率が着実に向上している。新たな感染症リスクや薬剤耐性菌の台頭に対しても、国内開発・製造能力を活かし柔軟に対応している。
これらの取り組みは、インドが持続可能な健康社会を目指し、多様性を内包した公衆衛生モデルとして国際的にも評価される基盤となっている。